COMMENT

日常であまりにも忘れがちな“思いやり”を
思い出させてくれたこの映画に、審査員みんなが恋をした。

ポール・ヴァーホーヴェン
     2017年ベルリン国際映画祭審査員長、『エルELLE』監督

些細な行き違いや小さな諍いで簡単にかき乱される私たちの日常。森の中で寄り添って生きる二頭の鹿の世界はなんと清らかで美しいことか。でも、映画を見終わると、この世界で不器用に生きることも愛おしくなった。
石井陽子(鹿写真家)

人との距離の取り方、女性ゆえの性の描き方など、私が20年間、映画を撮るときに意識的かつ無意識的にやってきたことが全て詰まった作品で、あらゆるところに共感しました。これからも偉大な、しかも女性の監督の背中を追っていけるというワクワク感もあり、エニェディ監督は私にとって特別な人だと感じました。(エニェディ監督との対談より抜粋)
大九明子(映画監督『勝手にふるえてろ』)

不器用な女と男の「触れ合いたい」という痛々しい欲望が、深淵な森の風景に溶けるように佇む鹿の姿となり、神々しさをまとって描かれる。人が繋がっていく様をこんなふうに表すことができるのかと、ため息が出た。
岡部えつ(小説家)

鮮血の日常、銀白の夢を追い、愛を見つめる物語。
孤独な二人に突然訪れた、寡黙で優しい夢――
沖田×華(漫画家)

『心と体と』は主な登場人物の数が、両指に収まるような小さな人間関係の物語である。だが、そこで展開する出来事とそこでの発見は、私たちの生活の風景を一変させるような示唆に富んでいる。
金原由佳(映画ジャーナリスト)

目的はどうであれ男女が無意識に互いを求め合う、
その時に感じる気持ちはどうであれ深く考える必要なんてない、
だって自分に正直でいる事が一番の愛情なんだから。
栗原類(モデル・俳優)

ネットやSNSよりも毎晩の夢に注目した方が良いと、現代人にとって重要なメッセージを受け取りました。スマホをオフにして、早寝します。
辛酸なめ子(漫画家、コラムニスト)

孤独な者同士の美しく切ない“同じ夢”の先にみる、新しい形のラブストーリー。
後半まさに心も体も震えた。
永瀬正敏(俳優)

間違いなく、素晴らしい映画
氷は熱によって溶かされるけれど、凍った感情は情熱だけでは決して溶けない
自分の中に相手と同じものを見つけることで、初めて心は溶け出すのだから
名越康文(精神科医)

屠場で肉牛の処理される場面を、呼吸が止まるほど美しく感じたのはなぜか。寡黙な表現が続くのに、観る者はまばたきもせず、人に、関係性に、その変化に見入ってしまう。「映像に文体がある」という表現があるならば、まさにこんな作品をいうのではないか。
西川美和(映画監督)

チラシのデザインを見て、「これ面白いんだろうなあ」と思っていたら、予想を遥かに超えていた。観終わってから何日経っても、主人公のふたりのことを考えてしまう。
こんな「ボーイ・ミーツ・ガール」、見たことない。予測不可能のクライマックス。
樋口毅宏(作家)

日の光が食肉工場の一角に陰陽の線を引き、影の際に潜むように立つヒロインの爪先を淡く照らす。彼女はすっとわずかに足を引き全身を影へと沈める。この素晴らしく繊細なショットに心を撃ち抜かれ、あっという間に『心と体と』が好きになってしまった。
深田晃司(映画監督)

食肉工場で殺される牛がとにかく衝撃的で、死の前では人間の愛や恋がちっぽけに感じられる。が、人はそのちっぽけなものがないと死に至るのだ。絶望の淵にいた男女がケモノに導かれて愛を見つける異色のドラマ。
山田あかね(映画監督・作家)

今夜いっしょに寝よう。
そう言ってふたりは、それぞれのベッドで、同じ時刻に眠りにつき、同じ夢をみる。
夢のなか、ふたりは鹿になって肌をふれあわせる。
ところが現実のふたりときたら……。
こじらせカップルのピュアで不思議なラブストーリー。
早稲田みか(大阪大学教授〈ハンガリー語専攻〉)

(敬称略・五十音順)

痛烈で力強く、信じられないほど繊細
Cineurope

目の覚めるような、胸を打つドラマ
Screen Daily

血と夢と鹿で彩られた、記憶に長く留まる映画だ
The Times

沈黙や気まずさの描写がアキ・カウリスマキやロイ・アンダーソンを想起させる
Time Out

冷徹さとロマンティシズムの融合に心を掴まれる
L'Humanité

ピュアな感情とユーモアを合体させた見事な独創性
Le Journal du Dimanche

詩的なロマンティシズムを、残酷なリアリズムで描く。
男女の結びつきの美しさを、それに伴う傷を包み隠さず称える。
それこそが愛だ。
Télérama