1955年11月15日、ハンガリー・ブダペスト生まれ。大学で経済学を学んだ後、ブダペスト演劇映画学校(現・大学)で映画制作を学ぶ。1977年から1985年まで芸術家集団 “Indigo”に所属。その後、1989年以前の東欧で唯一の独立系映画スタジオ“バラージュ・ベーラ・スタジオ”で働く。そこは若い芸術家たちのための制作場でもあった。
数々の実験的な短編映画を手がけた後、1989年から長編映画を撮り始め、デビュー作『私の20世紀』がカンヌ国際映画祭でカメラドール〈新人監督賞〉を受賞し、ニューヨーク・タイムズの年間映画ベスト10に選出されるなど高い評価を受ける。『Magic Hunter』(94)はヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出された。『Simon, the Magician』(99)はロカルノ映画祭で審査員特別賞を獲得し、ハンガリー映画週間では監督賞、撮影賞、男優賞の3冠に輝いた。2017年ベルリン国際映画祭の金熊賞〈最高賞〉作品『心と体と』は『Simon, the Magician』から18年ぶりに発表された長編映画である。
1990年には製作会社“スリー・ラビット・スタジオ”を自身で設立し、脚本家、監督として活動する。欧州のマスタークラス(スイス、ポーランド)で講義を行うとともに、ブダペスト演劇映画大学で教鞭をとっている。2017年には、ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門の審査員を務めた。
現在、レア・セドゥを主演に迎えた『The Story’s of My Wife』の準備中。
Filmography
- 1981年Flirt (38分)
- 1983年The Viewer (26分)
- 1986年Invasion (42分)
- 1987年The Mole (62分)
- 1988年Will-o’-the-wisp (40分)
- 1989年私の20世紀
(My 20th Century / 102分 / 配給:俳優座シネマテン)
- 1991年Winter War (39分)
- 1994年Magic Hunter (106分)
- 1997年タマーシュ&ユリ・ふたりの20世紀
(Tamas and Juli / 60分 / シネフィル・イマジカにて放映)
- 1999年Simon, the Magician (100分)
- 2004年EUROPA
(短編ドキュメンタリー、10人のハンガリー人監督によるオムニバス)
- 2008年First Love (20分)
- 2012-2016年 TERAPIA 1,2,3
(テレビシリーズ、アメリカのドラマ「In Treatment」のハンガリー版)
- 2017年心と体と (On Body and Soul / 116分 / 配給:サンリス)
COMMENT
絵本を手に取り、鉛筆で描かれた線一つ一つに作り手の愛を感じて、作者に想いを馳せる。あの感じによく似た気持ち。最後の1ページ、まだ終わってほしくない。けれど早く布団をかぶって夢の中でまた、美しいあの場所に行きたい。現代カオスに埋もれかけていた感覚全てを取り戻しました。
池田エライザ女優電気が発明され、時間、空間、光が細分化され、選択可能な運命をもつ「私」が発明された20世紀。
ヴィヴィアン佐藤美術家/非建築家次の100年はその細分化がさらに進み、その差異すら無意味となり、再び大きな物語が動きだすかもしれない。
これは人類が物語ることへの希求を照射した現在の物語である。
30年前、レンタル屋の新作コーナーで本作に出会った。20世紀の終わり近くに現れたVHSというメディアのジャケットに映る美しい女性に惹かれたのだ。
小島秀夫ゲームクリエイター懐かしくも実験的、滑稽でいて風刺的、モノクロでありながらも美しい映像に、私は“心と体と”を魅了されてしまった。あの美女の名前は失念してしまったが、イルディコー・エニェディ監督の名は“心”に残った。昨年、監督の新作に再会した際、原点である本作を無性に観直したくなった。このたびの4Kレストア版の劇場公開は、まさに世紀を超えた文芸復興である。私たちの21世紀に、あの魔法の様な時代の変わり目を追体感することで、私たちが見失いつつある”心と体と”がひとつになるに違いない。
20世紀に見た夢、20世紀を見る夢。
五所純子文筆家これは過去に立ち戻って飛躍をしこんだ前衛映画。
1989年につくられた1900年前後の出来事を2019年に映しだす世界旅行。
人類が最先端の20世紀に出会うために。
わたしは20世紀にいる。
電気にまつわる技術革新がいまだ“奇跡”と同義であった時代に立ち返るこの映画は、20世紀を回顧するのではなくありうべき未来に思いを馳せる。
遠山純生映画評論家思考停止の今日、わたしたちはパブロフの犬だ。後戻りできないと思い込むとき、偉大なる発明家エジソンの憂いた表情を思い出す。彼は預言者でもあった。だがしかしこれは、人工の光が勝ち取ってきた、目覚ましい映画。
山中瑶子映画監督『あみこ』現代は僕らが重要な選択をしてきたからこうなったのか、してこなかったからなのか。おそらくは両方だろう。選んだつもりもないのに、気がつけば、あるひとつの道を歩んでしまっているのだ。19世紀末を振り返る映画が20世紀後半につくられ、それを21世紀に生きる僕たちは見ている。「レストア版」は過去の選択を反省する機会なのか、それとも新たな選択を投げかけているのだろうか。
若木信吾写真家エジソンの電球、オリエント急行、アナーキスト、鏡の部屋。美しい映像詩に幻惑されます。20世紀は双子のマッチ売りの少女が擦って魅せてくれた束の間の夢だったのでしょうか。
堀込高樹音楽家/KIRINJIハンガリーは「西欧に突き刺さったアジアの棘」と呼ばれた国。そこには西欧に展開したのとは異なるモダン文化が花開いた。二十世紀モダンの光と闇を映し出す最高の鏡であるハンガリーのアヴァンギャルド芸術が、この夢のような傑作を生んだ。
中沢新一人類学者イルディコー・エニェディは魅惑的な魔法使いの心を持っている
San Francisco Chronicleフェデリコ・フェリーニ監督『8 1/2』以来、最も素晴らしく美しいモノクロ映画
The New York Times博学な機知とマジカル・シュールレアリスムの、めまいがするような融合に魅了される
Washington Post