一夜の関係を共にしていたジョヴァナとヤーゴをけたたましい警報が襲う。突如として世界中に発生した正体不明のピンクの雲——それは10秒間で人を死に至らしめる毒性の雲だった。
緊急事態下、外出制限で街は無人となり、家から一歩も出られなくなった人々の生活は一変する。友人の家から帰れなくなった妹、看護師と閉じ込められた年老いた父、自宅に一人きりの親友……オンラインで連絡をとりあううち、いつ終わるともしれない監禁生活のなかで、彼らの状況が少しずつ悪い方へ傾き始めていることを知るジョヴァナ。そして、見知らぬ他人であったジョヴァナとヤーゴも現実的な役割を果たすことを迫られる。
父親になることを望むヤーゴに反対していたジョヴァナだったが、やがて男の子・リノを出産する。ロックダウン以前の生活を知らないリノは、家の中だけの狭い世界で何不自由なく暮らしており、父となったヤーゴも前向きに新しい生活に適応している。しかし、ピンクの雲が日常の景色となるにつれ、ジョヴァナの中で生じた歪みは次第に大きくなっていくのだった……。
アタシたちは何が起きるか予測もできない狂った世界で生きている。外を歩くだけで傷ついたり事故にあったり、死んでしまう可能性すらあるこの謎に満ち溢れた世界において「ピンク色の雲に触ったら10秒で死ぬ」というあっけなさは、死への甘い欲望を引き出す。終始ピンク色の膜にうっすら覆われているかのような画面を見つめていると、雲が部屋の中にも充満しているように見えてきて息苦しい。登場する女たちに降りかかる出来事を見ていると、狭い世界に男とぎゅうと閉じ込められた時に苦しむのはやはり女なのだろうかと考えさせられてしまう。抵抗のすべを見つけよう。死んでるのか生きているのかわからなくなった時、アタシたちは雲への欲望を止めることができないだろう。