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Comment

※順不同・敬称略

イラスト

きっと今日もどこかで、この映画と同じことが起こっている。レンガを一本抜けば崩れてしまうこの社会で、自分ができることはなんだろう。

北村みなみ
アニメーション作家
イラストレーター

この映画を見ると、ジェーンや、彼女のようにキャリアを積み上げようとする女性たちが背負う重圧と葛藤を、そして痛みを、自分ごとのように感じることができる。
真のフェミニズムとは、口をつぐんでしまう女性たち、様々なケア実践を引き受けることで自ら社会の潤滑油になろうとするケアラーたちをも包摂できる運動なのではないだろうか。

小川公代
英文学者

私はこの映画のコメントに相応しくない、鑑賞後にそう思った。主人公ジェーンに色々言いたくなってしまうのだ。「まずは自分の特技をわかってもらわないと」「同僚と一回のみに行って、味方を作ってもいいのでは」「上司に報告したのは正しい。そこで言い返せたらもっと良かった」etc…

私が新入社員だった約20年前は、パワハラセクハラが当然のように横行していた。でも私はそれをハラスメントとは捉えず、個性のぶつかり合いだと思っていた。アホだった。

この映画で描かれているリアリティのあるどん詰まりの毎日は、かなり見覚えがある。しかしその日々をなんとか過ごせてしまったからこそ、冒頭のような感想が頭をもたげてしまう。私は私のような人にこの映画を観てほしいと願う。
最後に、仕事相手からの一方的なスケジュールの変更にもめげず、目の前の仕事をどんどん片付けていくジェーンは生き生きしている。彼女を殺さない未来を作るしか、私たちに道はない。

金城小百合
漫画編集者

この作品は、理不尽の細部を静かに描き尽くすことで、慣習に支えられた暴力の様態を告発することに成功している。
これまで見た映画の記憶から、不当な労働とハラスメントが作用した部分を取り除いたらどんなものができあがるのだろうか。それがどんなものであっても、この映画で描かれていることを不当だと思うのであれば、慣習に依らず「その後」を作っていかなければならない。

津村記久子
作家

​​大切な「夢」や「希望」を狙う。剥がす。奪う。黙らせる。
そういう仕組みだから、と諦めさせる。この仕組みを強化しているのは誰なのか。

武田砂鉄
ライター

家庭とオフィス、家事と事務の違いこそあれ、映画における「不可視の領域」に挑んでいる点で、『アシスタント』は、現代の『ジャンヌ・ディエルマン』と呼ぶべき映画だ。

小柳帝
ライター・編集者
イラスト

冬野梅子
漫画家

オフィスの蛍光灯が照らす孤独。静かな映画だからこそ主人公の心の声と繋がる気がして、その声が言葉として聞けないからこそ、観ている自分の気持ちと重なって、社会の至る所に充満する抑圧的な空気と混在している感覚。あれやこれやと思い当たる人や状況。空気が読めてしまう私たちはそれに対してどうするか。
この映画が提示する洞察力を行動力に変えていきたい。

増渕愛子
映画キュレーター
プロデューサー・翻訳家

ようやくたどり着いた場所で自分は虫ケラ同然の存在だと知ること、自分の意図にかかわらず一方的に性の対象としての値定めされること、仕事に支配され、人間関係から隔離される体験、自分が悪業や虐待に間接的に加担しているという事実に気が付かされることーーこうしたことに自分のかけらを見つける人がどれだけいるだろう?
これは誰かひとりの物語じゃない。

佐久間裕美子
文筆家

ジェーンは声を上げる女性ではなく、声を上げられなくさせられてしまう女性であるからこそ、『アシスタント』は重要な意義を持つ。
なぜならわたしたちの大半は、構造を打ち壊す一握りの勇敢な英雄ではなく、構造に否応なしに加担してしまう平凡な共犯者なのだから。

児玉美月
映画評論家

ジェーンは、どうにか抵抗を試み続けている私たち自身だ。彼女の設定上の名前“Jane Doe”が匿名の女性を指すものであるならば、この世界に生きる/生きた私たちはみな主人公である。
私たちは無名だが、決して無力ではない。世界が少しでも変わる結末を作り出すのは、本作を観たあとの私たちである。

関口竜平
本屋 lighthouse

お茶くみ、コピー取り、出張の手配……。
休む暇もないアシスタントの一日を追っていくうちに、やがて会社の中で見過ごされてきた暗部につながっていく。今まで見たことのないタイプのサスペンスなのに、初めて見たとは思えないのはなぜなんだろう。

西森路代
ライター

救いのない映画だ。しかし救いがない現実を抉り出したこの映画が世に送り出された、そのことがきっと、これからのジェーンたちへの救いになるに違いない。そんな希望が持てる映画だ。

ひらりさ
文筆家

紙で指を切ったときのような、小さくも鋭い痛みが、じわじわと胸に広がる日々。だが何かを考えようとすることは、このくたくたに疲れた身体ではかなわない。ずっと、ずっと削り取られている感覚。だが、誰によって? 姿は見えない。
あの扉の向こうで、何かが起こっている。

永井玲衣
哲学者
イラスト

自分の目の前で当たり前に起きている女性蔑視や抑圧を再確認させられます。
この映画がその気づきへの入り口になる事を切に願っております。

POOL
3DCGアーティスト

「自分らしい働き方」。「 居心地の良い職場」。「あらゆる仕事はクリエイティヴ」。そんな屈託のない言葉に照らされることのない場所がすぐそばにある。
仄暗さの奥に立ちすくむ無数のジェーンがこちらを見つめている。彼女を生み出すものが何かを想像し、畏れることなしに、これからを考えることはできない。

安永哲郎
コクヨ株式会社
THE CAMPUSプロデューサー

職場の酷い環境に耐える主人公は、一度も名前を呼ばれることが無い。彼女は実在の被害者たちを象徴する匿名の存在なのだと気付いて戦慄する。無数の声を体現するジュリア・ガーナーが、無表情のまま沈黙を叫びへと変え、世界を変える。
演出が主題に完璧に合致した現代必見の1本だ。

矢田部吉彦
前東京国際映画祭ディレクター